猪鹿帳

私たちは離れない。

願いを込めて

夏も始まり、梅雨続きだった。
それでも怨霊は出てくるのであって、雨が降っていようが戦うしかない望美達には休まる暇もなかった。


そんな中、指揮の中心であった九郎が怪我をした。
さいわい軽くすんだものの、他の八葉たちにも明らかに疲労が見えていた。
疲労は時として危険である。
弁慶の提案で、八葉たちは1日自由な時間を過ごすこととなった。

夜、望美は1人星を眺めていた。
あちらの世界と違い明かりが無いからか、よく見える。
ふと弁慶の部屋を見やるとぼんやりと光が見えた。まだ起きているのだろうか。

部屋の前へ行き、小さく名前を呼ぶと中から返事が返ってきた。
ふすまを開くと弁慶は薬草を煎じているところだった。

「起きていたのですか」
「なんだか、眠れなくて」

邪魔をしてはいけないとわかってはいたけれど。

「弁慶さん、星を見に行きませんか?」
「星、ですか」

ここで障子を開ければすぐに見れる。
けれど、あの星空の下を弁慶さんと少し歩きたかった。

「そうですね。行きましょうか」

そう言うと弁慶は煎じていた手を止めた。

ゆっくり並んで歩きながら、星を眺めた。

「綺麗ですね、望美さん」
「・・・はい」

天の川が見える。
彼らは一年に一回しか会えないけど。
私たちは離ればなれにならないように、私は軽く触れた弁慶さんの手を握った。
そっと握り返してくれたその手をいつまでも離さなかった。


今だけは、戦を忘れて。