
手を繋いでいるのに。
あなたはいない。
冷たい手と手
「神子の気が弱くなってる」戦いの合間に取った休憩中、ふいに白龍が言った。
「そ、そうかな」
白龍の言葉に望美はどきりと言い返す。
白龍の言葉に望美はどきりとする。数日前から気分が悪く、戦闘中も集中出来なかった。
だが皆に迷惑は掛けられないと望美は黙っていたのだ。
白龍の言葉を聞いた弁慶は、すぐさま望美に歩み寄り様子を見て口を開いた。
「望美さん、一旦帰りましょう」
「いえ、大丈夫ですから――」
「望美さん」
「・・・はい」
弁慶の有無を言わさぬ口調に望美は従うしかなかった。
梶原家に帰ってすぐに望美は布団に入れられた。
「気付けなかったなんて」
診察をしながら知らずに弁慶は溜息がでた。白龍が言わなければ彼女が倒れて、初めて気付いただろう。
弁慶は望美に薬を飲ませ、眠るのを見届けてから静かに部屋を出た。
「弁慶」
ちょうど前を通りかかった九郎はしかめっ面をしながら弁慶に近づいてきた。
「望美は寝てるのか」
「おや、九郎。彼女はついさっき眠ったところですが・・・どうかしましたか」
「怨霊が近くの村で人を襲ったと聞いたんだ」
「そうですか。しばらくは僕らでくい止めるしかありませんね」
当分彼女には無理です。
弁慶の言葉に九郎はばつが悪そうにした。
「そんなに悪かったのか?」
「風邪と疲労ですね。少し彼女を休ませてあげないと、いずれ倒れていました」
「わかった。他の者達と行くことにする」
「お願いします。僕は少し薬草を採りに行きます」
しんとした屋敷の中、弁慶は調合した薬を持って望美の部屋を訪ねた。
「望美さん」
眠っているのだろうか、物音ひとつもしない。
「望美さん薬で――!!」
襖を開けた先には抜け殻の布団。隣にあった剣も消えていた。
弁慶は自分の愚かさを悔いた。
何故、目を離してしまったのだ。望美は九朗と話しているのを聞いていたのだろう。
人一倍正義感の強い彼女だ。怨霊に人が襲われたと聞いたら一人でも行くとわかっていたのに。
迂闊だった。
「望美さん!!」
散々探してやっと見つけた彼女はぼろぼろの姿で倒れていた。抱き寄せるがぴくりとも動かない。
握った手は冷たかった。
「もしも彼女を一人にしなかったら」
口々に八葉は言った。
けれどわかっているのだ。
もしも、なんて叶わない夢の言葉。彼女はもう帰らぬ人なのだから。


