
機械的な音が頭上で響く。眠りを妨げるこの音は好きじゃない。
あと十分。
あと五分。
日常。
「・・・・・ぅ・・・」もぞもぞと寝返りをうつと何かが顔に触れた。
「・・・・・さん」
髪を掬われる感じが気持ちいい。その手を離さないよう掴み、擦り寄る。
「望美さん」
耳元から聞こえる声。
「・・・ん」
「起きてください」
うっすら目を開けると少し困り顔の男。
「べっ・・・べべ・・・弁慶さん?!」
驚いて飛び起きて、そこで望は弁慶の手をしっかりと握っていたことに気付く。
先ほど触れた正体がわかるとともに羞恥が望美を迎えた。
「君からこうしてくれるのは嬉しいな」
手の甲を艶やかな手つきで弁慶は撫で。
その感覚に望美は身震いした。
「けど、待ち合わせ時間になっても来ないので心配しました」
そう、今日は弁慶と映画へ行く約束をしていたのだ。
時計を見ると時刻は残酷にも約束の時間から何時間も経っていることを知らせていた。
「ごめんなさい・・・」
楽しみにしていた分、自分がしてしまったことに悲しくなる。
「そうですね・・・今日は望美さんと家でゆっくりしましょうか」
夜は寝かせませんけどね夜は寝かせませんけどね、と弁慶は口付けと共に囁いた。

