猪鹿帳

君しか見えない。

息すら吐けぬほどの愛を

君と出会って惹かれてしまった。恋をしていると自覚する。それでも君に言えないのが苦しく、切ない。
そんな日々が今でも愛しく思える。

月下での逢瀬。
そろそろ帰らなくては…と、頭ではわかっている。
だがこの逢瀬が終われば、しばらく二人きりで入れる時間がないだろう。そう思うと帰路へ向かう足取りも自然と遅くなった。
さやさやとささやく風と、蛍の光を眺めながら歩いていく。
他愛もない話をしながらも、繋いだ手は離れないようにしっかりと握って。


もうすぐ梶原家に着こうという時、不意に弁慶は足を止めて望美と向かい合った。

「この戦いが終わったら」

目まぐるしく変わってゆく景色。けれど何一つ変わらないあなたが愛しくて恋しくて。
ずっと言いたかった言葉。

「僕と一緒に暮らしませんか?」

驚きと喜びの感情が押し寄せて望美は言葉がでない。頷くだけで精一杯だった。
静かに見つめ合って二人はまた手を繋いだ。