猪鹿帳

もうひとつのエンディング

愛しすぎてしまった

山奥にある屋敷で。
外には警備兵を置いて、望美と弁慶は暮らしていた。


そんなある日。
慌ただしく弁慶が帰ってきた。
座って、遠くを眺める望美に話しかける。

「急な用事でしばらくここへは来れなくなりました」
「・・・・」
「食料はここに置いておきます。好きに作って食べてください」
「・・・・・・・・」
「では、行ってきますね」

急いでいるのか会話もそこそこに、弁慶は屋敷を後にした。

「ただいま、望美さん」

用も終わり帰ってきた弁慶は望美の華奢な身体を抱きしめる。
いつも通り弁慶が屋敷の外のことを話していると。
不意に望美は弁慶の名を呼んで、微笑んだ。
久しぶりに口を開いた望美に驚いて、
どうしたのですか?と問いたが。
その問いは最後まで言えず、血飛沫が弁慶を包んだ。
生暖かい血。
一瞬弁慶は自分のかと錯覚したが、それは望美のであった。
彼女は自らの首を包丁で切ったのだ。


もう耐えられません。
動いた唇はそう言った。



消え行くあなたを抱きしめる。

誰かに触れるのも許さず、
誰かに見られるのも許さず。

息する人形と化した彼女を常に側へ置いていた。
その瞳が僕を見なくなっても、あなたがいればそれだけで満足だった。

「その結果がこれですか」

目を閉じて、死を迎えた彼女に口付ける。

僕は彼女を愛しすぎてしまったのだ。

それでも、僕はあなたを愛し続けるだろう。

これからも、ずっと。